札幌高等裁判所 昭和26年(う)833号 判決
電話加入権を、名義書換に要する書類を交付する方法によつて二重に担保に供する場合においては、先ず弁済期の到来した債権の債権者が名義書換をすると、他の債権者は、名義書換ができなくなるか、又は著しく困難となることは明らかであるから、かような優先順位の担保契約のある電話加入権を目的として、更に同様な担保契約を為すときは、その担保契約の時において名義書換が可能であるとしても、担保の目的としては瑕疵あるものといわねばならない。原判決が、被告人が本件電話を他に担保として差入れてあるに拘らず、これを黙秘して、取引上何らの瑕疵もないもののように装つて、そのように誤信させた旨判示しているのは、実に叙上の事実を意味しているのであつて所論のように、公簿上名義書換ができない状態にあることを意味しているのではない。然して、原判示引用の証人前田政七、佐藤五郎の各供述記載によると、原判決(1)の被告人が本件電話加入権を佐藤五郎に対し担保に差入れた昭和二十五年二月初頃には、前田政七に対し、同(2)の株式会社北斗商会に担保に差入れた同年三月三日頃には、右前田及び佐藤の両名に対し、いずれも、先に弁済期の到来すべき債権担保のため、本件電話加入権につき、前叙のような担保契約が為されていたことを認めることが出来るから、原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。
第二点について
已に甲に名義書換に要する書類を交付して担保に供しある電話加入権を、同様な方法で、更に乙に担保に供する場合には、乙は已に甲に担保に差入れてある事実を知ることが出来ないのであるから、債務者は乙に対して已に甲に担保に供してある事実を告知すべき義務あることは、信義誠実の原則に照らし蓋し当然であつて、これを黙秘して更に担保に供するときは、後の担保権者乙に対する関係において、不作為による欺罔行為ありといわねばならないから詐欺罪の成立を否定することは出来ない。従つて原判決に所論の法令の適用の誤又は理由のくいちがいはない。論旨も理由がない。
第三点について
刑法第二百四十六条第一項の騙取罪は、人を欺罔して、錯誤に陥れ、因て財物を騙取することによつて成立するのであつて、必ずしもこれが為に被欺罔者又は第三者に財産上の損害を生ぜしむることを必要としないのである。従つて、被告人が本件電話加入権につき、已に他人に対し、債務の担保として名義書換に要する書類を交付してある事実を秘匿して、北斗商会専務取締役阿部道男に、そのような事実がないものと誤信させ、同人から額面金五万円の小切手一枚を騙取したこと原判決認定のとおりである以上ここに詐欺罪は成立し、後に右阿部道男が、その電話加入権を同会社の名義に書換えたことによつて、却つて利得を得る結果となつたからとて、先の小切手騙取の所為が罪とならないという所論には到底賛同し得ない。